ブックレビュー 『解剖医 ジョン・ハンターの奇数な生涯』

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 ウェンディ ムーア

The Knife Man: The Extraordinary Life and Times of John Hunter, Father of Modern Surgery

CapD20130411_9

CapD20130411_16

 

 

 

 

 

 

本書表紙に描かれている出産直前の妊婦と胎児の絵は衝撃的ですが
原書の表紙も大分過激です!

 

人物像のみならず、彼が構えた豪華且つ奇怪な屋敷が、
ジキルとハイドのモデルになったと伝えられる人物です

スコットランド出身の田舎者だったジョン・ハンターは
助産婦(産婦人科)を目指していた10歳上の兄を頼ってロンドンへやってくる訳ですが、
兄が開講した解剖学校の講師を務めるべく、
見習いからの立場から、解剖の腕前をめきめきと上達させていきます

ジョージ3世の統治下にあった18世紀

キリスト教による神の創造が絶対的な信条だったこの時代
ジョン・ハンターは数えきれない程の解剖を通じて、
人間の身体の仕組みや生物の進化、発達過程、健康・病気の状態を
科学的な観点から捉えていた稀有な医師でした

医学に対する彼のひたむきさは、野蛮とも思える程の狂気に発展
解剖材料(死体)を得る為に、絞首刑者の遺体を奪いあり、墓場を掘り起し、
果ては葬儀業者を買収して死んだばかりの新鮮な遺体を手に入れるまでになります

解剖で手に入れた臓器や珍しい病気、奇形はどんどんと標本にして
彼の膨大なコレクションに加えられて行きました…

 

ヒトの死体のみならず、異国の地から珍しい生き物がやってきたと聞けば
いちもくさんに飛んで行き、ライオンや麒麟、水牛やアザラシに至るまで
欲しいと思うものは、いかなる手を使ってでも手に入れたのです

ダーウィンが 「種の起源」 を唱える70年も前に、
ジョン・ハンターは進化論を考え出していたのだそう。

ジョン・ハンターが外科医(解剖医)として生きた時代のロンドンは、
著名な画家、ウィリアム・ホーガスが描いたように、
貧困、売春、アル中、腐敗、不潔がめいっぱいに詰めこまれた混沌としたご時世

ウィリアム・ホーガス
ジン横丁

 CapD20130411_13

 

 

 

 

 

 

 

医学の分野はと言うと、
威厳前5世紀の古代ギリシャに生きた医学の父ヒポクラテスが唱えた
「あらゆる病は、血液、粘膜、黒胆汁、黄胆汁の4つの液体の不均衡によって起こる」
という教えにしがみつく、旧態依然のまま

 

本書によると、医師(主に内科医)は、患者から簡単な問診を行うのみで、不調を訴えている部位を調べる事はなかったそうです。
毒薬を服用したり、瀉血をしたり、火であぶったりと…とぞっとするような医療行為が堂々と行われていました。

人体を切ったり、血管を切開するのは、不浄な仕事であると見なされたため、
専ら外科医や床屋に委ねられたとのこと

 

そんな時代に生きたジョン・ハンターが、英国王立協会の外科医として
地位を確立し、その中に認められたあとも、病的なまでに人間・動物の解剖実験に明け暮れた日々を綴ったのがこの本です。

 

気違いとも思える彼の行動には驚くばかりですが、
自分の性器に性病をうつして病理観察したり、原因と結果を論理的に研究したり、
何事も自分の頭で考えて行動するよう研修医たちに指導した姿は
同時の医師としては極めて前衛的な事でした

 

ジョン・ハンターのエピソードを更に引き立てているのは、周囲の登場人物です

 

ジョン・ハンターの一番弟子であった、エドワード・ジェンナーは
天然痘ワクチンを開発した人物です

前述した、画家ウィリアム・ホーガスは、この時代を代表する風刺画の達人

アダム・スミスとも交流があり、ジョシュア・レイノルズには肖像画まで書いて貰っているなんて!

ジョシュア・レイノルズの作品

CapD20130411_14

 CapD20130411_11

 

 

 

 

 

晩年のジョン・ハンターの講義受講者には、
パーキンソン病を発見した、ジェームズ・パーキンソンも名簿に名を連ねていたそうです。

 
ナイフマンが生涯に渡り蒐集したコレクションは、
ハンテリアン博物館で見ることが出来るようです。
http://vicioussabrina.blog72.fc2.com/blog-entry-118.html

Hunterian Museum (公式サイト)
http://www.rcseng.ac.uk/museums/hunterian

 面白くて一気に読める内容です。

Comments are closed.