ブックレビュー 『天才と分裂病の進化論』

先日、2月5日に実施された、溝口徹先生の座談会で紹介された書籍です

数年前、江部先生もブログで本書について言及なさっています

天才と分裂病の進化論

*本書が出版された2002年は、「精神分裂病」が「統合失調症」という名称へ移行する過渡期であったため、
当時一般的に普及されていなかった「総合失調症」という言葉は敢えて使わず、「精神分裂病」と表記していています。

 

独特の内容構成や高い専門性が障壁となり、理解するには時間を要しますが、
人類の進化と分裂病の原因解明に関し、多分に示唆に富む内容だと思いました。

私自身、生化学や栄養療法の知識は浅いですので、
正しく理解しているか分かりませんが、骨子としては、
チンパンジーと人間を隔てたものは、皮下脂肪と脳への脂肪供給であり、
殊、脳への栄養素である必須脂肪酸(オメガ3,6)の代謝物であるアラキドンサン、EPA、DHAが
ヒトの知能を高度化・複雑化させ、その過程で起きた突然変異が分裂病の起源だと捉えています。

必須脂肪酸(脳を発達させるためのアラキドンサン、EPA、DHA)は、
体内では作れず食物から摂取する必要があり、
ヒトは微細藻類からの食物連鎖を通じて、主に水棲食物から取っていたようです。

チンパンジーも必要な脂肪を摂取するため、
白アリを捕まえて食べるほか、残酷にも猿を襲って頭蓋骨を割って食べるのだそう。

脳の発達に伴う突然変異は、人類の文化的、宗教的、政治的、経済的発展に大きく寄与
分裂病を発症した本人や家系には、人類の発展に貢献した著名な人も多いそうです
(ジャンヌダルク、ニュートン、ベートーベン、ジョン・ナッシュなど)

分裂病は、いかなる地域、人種においても発生率の差異がなく、
地理的分布は人口当たり0.5%~1.5%

精神分裂病患者は、工業国に居住しているものほど症状が重く、
必須脂肪酸の摂取量が多い発展途上の国の場合は比較的穏やかだとも明示されています

 

著者曰く、精神分裂病の患者は、
『リン脂質からアラキドンサンが遊離されない、
或いは、アラキドンサンがプロスタグランジンに変換されない』のだそうですが、
こうした異常体質も栄養素(脂肪)で改善が期待できるとしています

溝口先生始め、精神疾患に栄養療法を導入される医療機関も増えていますが、
正にこうした治療法の有効性を裏付ける、貴重な研究データなのでしょう

 

残念ながら著者のデイヴィッド ホロビンは2003年に逝去しています
彼が仮説立てた、分裂病における栄養素の確たる効用やそのメカニズム、
チンパンジーとヒトを隔てた遺伝子的構造は完全には解明されていません

とても面白い本ですが、核心に迫るまでいささか冗長的であったり、
精神疾患に対する栄養素(脂質)適応の明確な効果や結果が記載されていなかったのが残念でした

栄養療法や生化学的なメカニズムを把握できれば
本書に対する理解もより一層深まるのではと思いました

 

分裂病の発生メカニズムや治療法という観点以外にも
人類の進化過程、農耕文化の影響、ヒトの食習慣の変遷など
様々な領域にヒントを与えてくれる一冊です

 

Chimps vs red colobus monkeys – BBC wildlife
チンパンジーがコロバス猿を仕留める動画

 

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